肩が痛い、挙がらない! 肩が外れそうで怖い/痛い! または実際に外れる! どう考えてどう対処する?

「肩が痛くて腕が挙がらない、動かせない!」日常生活でたいしたきっかけもなくこういう事態におちいってしまったら、ドキッとするに違いありません。また「肩が外れそうで怖い」ということになると腕を伸ばすこともためらってしまいます。こんなときにどう考えればよいのか、症状別に取り上げてみましょう。

なお、このコラムに出てくる肩の病名は順に以下のようになります。

1)じっとしているときから持続的に痛い

このような場合にまず考えられるのは、肩の関節腔を形成する袋(関節包、と言います)が赤くはれて炎症をきたしているような状態、すなわち激しい関節炎を呈しているような状態です。肩を動かそうとすると腫れあがった関節包が引き伸ばされますので、ますます痛くなります。そうだからと肩を動かされないよう無意識に力をいれて固めていると、周りの筋肉まで凝り固まって別の痛みをきたすようになり、にっちもさっちもいかなくなることがあります。ひどいときには腕をぶら下げていることさえ苦痛になります。肩がどのような異常をきたしているにせよ、関節炎が究極的に悪化すると皆このような症状になりますので、この状態で関節炎をきたした原因が何であるかを診断するのは不可能です。

こういう時はまず関節炎を鎮静化させ、なんとか痛みが少なく過ごせる時間を少しでも長くすることを目指します。できるだけ安楽なポジションでリラックスできるように、三角巾で腕を吊ることも一つの方法です。氷枕で冷やして熱をとるのがいいこともあります。一般的な痛み止めはほとんど効かないことが多いので、お近くの整形外科を受診することをお勧めします。肩関節に注射して腫れ・痛みを鎮めようとすることが多いと思います。


同じく安静時から痛い状態をきたす原因として、神経痛があります。肩の感覚は神経を通じて電気信号として脳に伝えられますが、その途中の神経が刺激されることで肩の状態と関係なく電気信号が生じ、脳に伝えられてしまうことがあります。このとき脳は肩から来るはずの神経経路で電気信号を受け取るので「肩が痛い」と感じてしまいます。このような肩の痛みをきたす神経刺激が最も生じやすいのは頸椎です。頸椎では神経が大きく方向を変えて狭い骨性の通路をくぐり抜けなければならないからです。「頸が悪いのに肩が痛い」ことが生じる理由がここにあります。ただし、この場合は痛くても肩関節の動きは障害されていない(肩を動かしても痛みが増すわけではない)という特徴があります。

2)じっとしていると痛くないが、動かすと痛い

1)の段階を乗り越えると、じっとしていれば大丈夫だが動かすと痛い、という段階に至ります。「動かせば痛い」という病態はどう考えればいいのでしょうか。これは、そもそも関節が十分動くために果たさなければいけない条件、

  • 1 関節を形成する球が皿の上に安定して載っている(求心性の保持)
  • 2 周囲の関節包や筋肉がきれいに伸び縮みする、あるいは滑りあう
  • 3 組織どうし接する面が平滑でひっかかりがない

のいずれかが崩れたときに生じると考えられます。

2)-①関節を形成する皿の上に球が安定しないから痛む(求心性の崩れ)

 肩関節の安定性を骨格の観点から考えてみます。

 そもそも、腕の骨(上腕骨)はどの骨と関節を構成しているのでしょうか。その答えは意外にも背中にある肩甲骨で、肩甲骨関節窩(皿)と上腕骨頭(球)とが対になっています(図1)。

図1 肩の関節を構成する骨

図1 肩の関節を構成する骨

関節窩に比べて骨頭はかなり大きいので、もともとかなり不安定な構造をしています。腕を動かすと骨頭はいろんな方を向きますので、関節窩からこぼれ落ちないように(すっかりこぼれおちてしまった状態が脱臼です)、肩甲骨は肋骨で構成された胸郭の上を動きます。言い換えれば、肩甲骨は関節窩を骨頭に向けるように胸郭上を移動し、移動した先でぐらぐらせずにしっかり腕を支持するということを繰り返している大変な骨だ、ということになります(図2)。

図2 上腕挙上時の肩甲骨の動き

図2 上腕挙上時の肩甲骨の動き

肩甲骨が自由に動くためには、胸郭が柔軟にしなる必要があります。体操選手がぱっと手を挙げると伸びた背筋が美しいカーブを描きますが、脊椎がそれくらい柔軟に動かないと胸郭がしならないので肩甲骨が動かず、手もきれいに挙がらないのです。

一般の方々が体操選手ほどしなやかに体が使えるようにはなかなかなりませんが、動きの自由度を失ってしまったがために関節窩(皿)が骨頭(球)をきっちりと載せられなくなり、肩の痛みをきたすことは極めて多いです。関節窩と骨頭の関係性(求心性と呼ばれます)を取り戻すために運動療法が採り入れられる理由がここにあります。京都桂病院整形外科ではリハビリテーションセンタ―と緊密に連携して、外来診療から運動療法を積極的に行っています。

なお、肩の脱臼に関しては別項で述べることにいたします。

2)-② 周囲組織が伸縮しない、滑らないために痛む

関節包や筋肉が伸縮しない、滑りあわない背景にはやはり炎症があります。1)で述べたような激しい関節炎が生じると、関節包が分厚く腫れて本来あるべき関節の隙間を埋めてしまいます。分厚くなった関節包は伸縮性が低下し、また関節の隙間が埋まることで組織同士が滑りあわなくなります。これらのために関節の動きの幅が狭くなります。関節包が不自然に引っ張られると痛みをきたしますし、部分的に炎症が残存するとこれも痛みの原因となります。いわゆる五十肩は非常に痛い時期から関節が固くなる時期を経てだんだんと動く時期に推移していきますが、このような炎症に伴う変化であることから肩関節周囲炎と呼ばれますし、非常に関節が固くなる時期があることから凍結肩と呼ばれることもあります。

治療はやはりリハビリテーションが中心です。組織が滑りあうように促したり伸縮性を回復したりします。ピンポイントに大変痛い箇所へあえて刺激を入れることもありますが、痛くない動きを徐々に広げていくようにするのが原則です(痛いのを我慢して無理やり動かそうとしても結局力んでしまって動きの拡大につながらないことが多いです)。


どうしても症状が改善しないときには手術で関節包を破ってしまうこともあります。手術には関節鏡という内視鏡を使います(図3)。関節包を破ってもまたくっついてきますので、動きの範囲を保つように術直後から積極的にリハビリテーションを行います。スムーズにリハビリに取り組めるように、京都桂病院整形外科ではさまざまな鎮痛手段を駆使しています。

図3 凍結肩(肩関節拘縮)に対する鏡視下関節包解離術

図3 凍結肩(肩関節拘縮)に対する鏡視下関節包解離術

2)-③ 組織同士が接しているところで引っかかりができて痛む

これには骨同士が引っかかるときと、腱が引っかかるときがあります。


A. 関節窩と骨頭とが引っかかって痛みを出す

関節面を形成する関節窩と骨頭は滑らかに滑りあうのが普通ですが、それぞれの表面を覆う軟骨が失われ、骨同士が直接接触するような場合があります。これを変形性関節症と呼びます。肩の変形性関節症は膝や股関節と比べて頻度が少なく、何とか付き合っていける程度の症状でおさまることが多いです。しかしどうしても痛みが著しいときなどは骨同士の接触面を作り直す必要があり、肩を切開して人工関節を設置します(図4)。

図4 変形性肩関節症と解剖学的人工肩関節置換術

図4 変形性肩関節症と解剖学的人工肩関節置換術


B. 腱が引っかかって痛みを出す

上の2)-①の項で肩甲骨と上腕骨が関節を形成していることを述べました。この両者の間を結ぶ筋肉で骨頭を包むように位置するものが四つあります。前方の肩甲下筋、上方の棘上筋、後方の棘下筋・小円筋です。これらの筋肉は肩甲骨から離れると腱になって上腕骨に付着します(ちょうどふくらはぎの筋肉がアキレス腱を形成して踵の骨に付着するようなものです)。これらの腱同士は密着して境目が分からなくなっており、上から見るとまるで上腕骨が腱の板で覆われているように見えます。それで、これらの腱の集合体のことを腱板と呼びます(図5)。

図5 腱板構成筋

図5 腱板構成筋

腱板の機能の一つとして、腕を挙上したときに肩峰と呼ばれる骨の下を滑らかにくぐるというものがあります。図6は腕を挙上したときにエコーで肩峰と腱板の関係を観察したものですが、腱板が肩峰下面に接しながら滑走しています。

図6 肩峰下に滑り込む腱板のエコー像

図6 肩峰下に滑り込む腱板のエコー像

腱板は外傷(けが)や加齢に伴って上腕骨からはがれてしまうことがあり、これを腱板断裂と呼びます。腱板断裂が生じると断裂部が肩峰下をくぐるときに刺激されて鋭い痛みを出すことがあります。エコーで観察しながら少量の麻酔薬を断裂部に注入すると挙上時の痛みが軽減することがあり、腱板断裂が本当に痛みの原因か否かの診断根拠になります(腱板断裂があっても痛くなく生活できている方は大勢いるので、画像で認められた腱板断裂が本当にお困りの痛みの原因となっているかどうかの検討は非常に重要な診断ステップです)。


治療は上記のような注射のほか、より引っかかりにくい動きの習得を目指すリハビリテーション、さらには手術があります。手術も考え方によっていろいろな術式がありますが、まずは断裂部の修復を目指すのが基本です。京都桂病院整形外科では関節鏡を用いた腱板断裂手術を主に行っています(図7)。

図7 鏡視下腱板断裂手術

図7 鏡視下腱板断裂手術

ここまで腱板断裂の断端が肩峰下に引っかかって痛みを出すことを考えてきましたが、腱板断裂がもっと拡大して修復できないくらい大きくなったらどうなるでしょう。腱板はもともと四つの筋の一部ですから、腱板断裂が大きくなりすぎると筋の機能自体、すなわち骨頭を関節窩に引き付けて安定化させることができなくなります。こうなると骨頭が上方に移動して肩峰と直接こすれあうようになり、両方の骨が変形してきます。この状態を腱板断裂症性関節症と言います。


腱板がなくても肩甲骨と上腕骨との位置関係を保つようにする、この問題を解決するために本邦では2014年から生来の肩の形とは皿と球の関係を逆転させる人工関節(=リバース型人工肩関節)が導入されました。具体的には関節窩に球、上腕骨に皿を据えることで関節面の位置を変え、外側にある大きな三角筋が関節面の安定化と肩挙上のための筋力発揮の両方を担えるようにするものです(図8)。非常に画期的な人工関節ですが、まだ15年20年後にどうなるかというデータがないので、リバース型人工肩関節をどのような患者さんに適応するかに関しては、いろいろな決まりがあります。

図8 腱板断裂症性関節症とリバース型人工肩関節

図8 腱板断裂症性関節症とリバース型人工肩関節

3)肩が外れそうで怖い、痛みが出てしまう あるいは、実際に脱臼してしまう

関節窩と骨頭の関節面が全く接触しないくらいまで骨頭がこぼれ落ちてしまった状態を脱臼と言います。ここまで至らなくてもその直前までの不安定な状態(こぼれ落ちかけ)になることを亜脱臼と言います。脱臼肩では通常、関節窩の前下方に骨頭がこぼれ落ちますが、脱臼する直前まで何の症状もないのが普通です。脱臼する直前になって「外れそうで怖い」という感覚が生じ、それ以上に腕を持っていかれると脱臼してしまいます。上記の定義でいうと亜脱臼の状態の時に脱臼不安感が生じるわけですが、このときに不安感ではなく痛みとして自覚される方もいます。


肩関節が脱臼してしまう大きな理由として関節包が骨頭を支えきれなくなった状態が指摘されています。図9で青〇の位置に手があるとき、関節窩側から骨頭を観察すると青□のようになります。関節包のうち下方の分厚くなった部分は骨頭を下支えするような位置に広がっています。ここから橙〇の位置に手が移動するとき、関節窩側から骨頭を観察すると橙□のようになります。分厚い関節包がハンモックのように骨頭を前下方から包み、骨頭が前下方にこぼれ落ちることを防いでいます。一度脱臼するとこのしくみが損傷し(多くは関節窩側で関節包がはがれてしまい、バンカート損傷と呼ばれます)、脱臼を繰り返す(反復性肩関節脱臼と呼ばれます)原因となります。

図9 肩が脱臼しないしくみ

図9 肩が脱臼しないしくみ


肩関節を脱臼した場合に手術が必要か否か、またどんな手術を選択するかを決めるにはいろいろな条件を考慮する必要があります。目の付け所(年齢、スポーツをするかどうか、うまれつきの関節の柔らかさ、脱臼したときに骨まで欠けてしまっていないか、など)によって、相談するドクターごとに答えが異なる、ということもあるかもしれません。下方の関節包の緊張を取り戻すという観点では、関節鏡下に関節包を緊張させて関節窩に逢着する手術(図10)が代表的になりますが、肩を切開して烏口突起と呼ばれる骨を切り取り別の場所に移植するという伝統的な術式も近年見直されています。

脱臼だけに限りませんが、何をやってもいいところ悪いところがありますから、各々を比較して一番良いと思う方法を選択していただきたいと思います。

図10 鏡視下バンカート修復術

図10 鏡視下バンカート修復術

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