股関節の痛み
股関節は歩行に関して重要な関節の一つであり、様々な病気のために痛みが生じると歩行をはじめ、日常生活動作に支障をきたしてしまいます。幼児や学童期に多い股関節炎や、スポーツに関連して生じるFAI、関節唇損傷、そして臼蓋形成不全や加齢による軟骨障害で生じた変形性股関節症、ステロイド治療やアルコール多飲などに起因する大腿骨頭壊死症などが挙げられます。
また高齢者が転倒したときに起こりやすい、大腿骨近位部骨折に対する治療も早期手術が生命予後に関連するといわれており、術前評価を行った上で可能な限り早期に手術対応しております(夜間や休日にも病棟、手術室とも連携した上で準緊急的に手術加療を行っています)。
現在は主に変形性股関節症や大腿骨頭壊死症に対して人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)を行っています。将来的には股関節鏡(こかんせつきょう)を用いた、FAIに対する股関節形成術、股関節唇損傷に対する治療も導入する予定です。
変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)
股関節を形成する骨は骨盤の骨のくぼみである股臼(こきゅう)に大腿骨の先端の丸い部分=骨頭(こっとう)がはまり込む形です。骨の表面は軟骨で覆われており、軟骨の端には関節唇(かんせつしん)という柔らかい組織が骨と骨の間に挟まり込んでいますので、関節が傷まずに長持ちすると言われています。しかし加齢や外傷などで関節唇や軟骨が損傷されると、硬い骨どうしが当たってしまうようになり、お互いを削り合うことで炎症を生じたり、骨自体の変形が進んでしまうと動かせる範囲=可動域(かどういき)が低下したりします。
大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)
ステロイド治療、アルコール多飲、喫煙、外傷などの原因で大腿骨の骨頭を栄養する血流が十分でなくなると、生来丸い骨頭が陥没してしまう、骨頭壊死に至る場合があります。病期が進むと痛みのために日常生活動作に支障をきたすため、手術を勧めます。
人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)
大腿骨の外側で体表からふれる部分=大転子(だいてんし)を中心として通常は11-14(体格や変形の程度によります)cmの皮膚を切開し、外側から関節内に進入する方法で手術を行います。
骨盤の骨である股臼については残存している軟骨と硬くなった骨=硬化骨(こうかこつ)を丸くくり抜くような器械=リーマーで削り、中央が半球状に凹んでいて本体も半球状のポリエチレン製部品を医療用のセメントで固定します。(年齢、骨質、骨盤の傾き、脱臼のしやすさなどを考慮して脱臼しにくい部品を使用することがあります)部品同士がこすれて傷む摩耗(まもう)の低減で長期生存に有利と言われている、ビタミンEを含有したポリエチレンを使用するようにしています。大腿骨側は骨頭の部分で骨を切り、内部=髄腔(ずいくう)は海綿骨というスポンジ状の骨であるため、ラスプという器械でスペースを拡大し、ひらがなの“へ”の字状であるステムと呼ばれる金属製の部品を同様に医療用のセメントで固定します。先端に丸い部品をとりつけて、擬似的な骨頭を再現し、臼蓋側の丸く凹んだ部分と、疑似骨頭のところでくるくる動かせることができるので、術後も大腿骨を曲げたり捻ったりできます。
しかしいくつか問題はあり、①人工物を体内に留置しますので、どのくらい傷まずに長持ちするか(一般的には20年前後の長期生存は期待できます)②ある角度以上に曲げようとすると部品同士が干渉していまい、それ以上動かそうとしたときに凹みから外れてしまう脱臼(だっきゅう)のリスク、③人工物まで及んでしまった場合には再手術が必要になる感染(手術創からの感染率はおおよそ1%と言われています。)などが挙げられます。
①については適切なセメントテクニックを応用し、変形が強い場合には骨を補い=骨移植(こついしょく)、必要によってはさらに補強部品を用いて対応します。②についてはリハビリを行っていただく理学療法士とも十分に連携し、脱臼しやすい動作を避けた生活パターンを習得いただいています。③についてはクリーンルームでの手術、予防的抗菌薬投与、セメントに抗菌薬を含有させる、手術前に歯科健診に行っていただくなど感染予防に努めております。
体格や骨の硬さ、変形の程度にもよりますが、手術時間は2時間~2時間半程度、入院期間はもともとの体力や術後経過にもよりますが、通常2~3週間入院リハビリを行い杖での歩行が可能となれば退院いただき、外来でのリハビリを術後5ヶ月程度まで続けます。
手術を行う患者さんは70歳前後の患者さんが多いですが、30代~90代まで幅広い年齢の患者さんに手術を行っています。手術するタイミングについては外来で十分お話したうえで決定するようにしていますので、どうぞお気軽にご相談ください。
術前臥位
術後臥位
骨盤の傾きがきつく、急速に関節の破壊が進行した患者さんです。臥位と立位ともに骨盤の後方傾斜が強く、姿勢によって骨盤の傾きが大きく変化するため脱臼のリスクが高いと判断し、抜けにくい部品(Dual Mobility)を使用しました。
術前(臥位)
術前(立位)
術後(臥位)
他院で10年以上前に人工股関節手術をされた患者さんで、疼痛が出現し、部品の摩耗と、骨の溶解を生じていた患者さんに対して、再置換術を施行しました。大きな骨移植と補強する部品(プレート)を併用しています。6時間程度手術時間を要しましたが、輸血もなく経過し、6週程度の入院リハビリののち、自宅退院されました。
術前臥位
術後臥位