消化器センター・外科

直腸癌手術の最前線

2019/09/01

直腸癌手術の最前線

直腸癌と言えば、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか?血便が出る、便が出にくくなる、手術をしたら人工肛門になる…といった所でしょうか?

 

 直腸は大腸の終末部であり、肛門から約15㎝~20㎝までの部分を指します。大腸で水分が吸収されて形作られた便はこの直腸に貯留され、肛門から排出されます。多くの患者さんは便に血が混じったり、便が細くなったり、回数が多くなったり、お腹が張ったりといった症状や、検診での便潜血検査から発見されますが、中には長年ずっと痔出血と思っていた患者さんに進行癌が見つかることもあります。

 早期の癌であれば大腸カメラで切除する(EMR、ESD)ことも可能ですが、手術が必要となる場合も少なくありません。直腸下部、すなわち肛門に近い癌であるほど手術は難しくなります。そのような場合、従来は腹会陰式直腸切断術という肛門ごと直腸をくり抜いて永久人工肛門を造設する手術がほとんどでした。現在でも癌を根治する為にはこの手術が必要なこともありますが、直腸低位前方切除術や括約筋間直腸切除術(ISR)といったできるだけ患者さんの肛門機能を温存する手術が行われるようになってきました。特に近年の腹腔鏡手術手技の進歩や当院でも昨年導入したロボット手術により、手術難易度の高いこれらの肛門温存手術が安全に施行可能となってきています。また、当院では直腸周囲に散らばった癌細胞を死滅させて手術で取り切ってしまう目的で、術前化学放射線療法を行っています。これにより局所での術後再発が制御され、手術根治性が向上することが期待されます。癌細胞の種類によっては、この化学放射線療法が著効して腫瘍が消失した場合、手術を行わずに注意深く経過観察(Watch & Wait)していくことも試みられており、良好な成績が報告されています。

 直腸癌の治療は手術のみではなく、化学療法や放射線治療も組み合わせた集学的治療の時代に突入しました。さらに、癌細胞の遺伝子プロファイルを検索し、個別に最適な化学療法を選択することも夢ではなくなってきています。医学が急速に発展する時代にあって、常に患者さんと共に最善な治療を行っていきたいと考えています。

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