脳血管障害は、血管が破れる出血性のものと血管が詰まる閉塞性のものとに二分されます。前者には脳動脈瘤や脳動静脈奇形の破裂によるくも膜下出血や脳出血があり、後者には脳機能が正常に戻りうる脳虚血と脳がすでに融けてなくなってしまって再び正常には戻ることのない脳梗塞とがあります。脳血管の病気によって今まで元気であった人間が一瞬にして重篤な状態に陥る様態は、出血性か閉塞性かの原因を問わず、脳卒中(脳溢血、中風、中気など)と呼ばれ、非常に危険で悲惨なものです。発症を予見することは容易ではありませんが、進歩の著しい最新画像診断機器と緻密な読影とを駆使した脳ドックによって無症状の被験者の一割弱に異常が発見されるようになってきました。出血性のものに対する手術は脳内に溜まった血を取り除くことと出血源の処理が目的で、動脈瘤(J Royal Socie Med 96)ではネッククリッピング(Lancet 358)、動静脈奇形では全摘出が原則です。破裂すれば死亡率50%といわれるくも膜下出血を生じる未破裂の動脈瘤に対する予防的手術の効果については未だ定説は確立されていませんが、十分な経験と技量を備えた術者による場合には手術の有効性は高いと考えられています。閉塞性のものに対しては、頭皮の血管を内径1mm前後の脳表の血管に吻合するバイパス(浅側頭動脈‐中大脳動脈吻合)術や内頚動脈を開いてアブラカスを掃除する血栓内膜剥離術(J Stroke Cerebrovasc Dis 9)などを行います。これらの目的は脳への血液の巡りを改善させることによって虚血脳を梗塞に陥らせない、すなわち弱っている脳を死なせないで回復させることであるので、予防手術としての手術時期が極めて重要です。また、動脈瘤の瘤内コイル塞栓術やバルーン、ステントを用いた血管形成術などの血管内手術(Neurosurgery 27)も、知己である日本脳神経血管内治療学会の指導者を招いて実施可能です。
脳腫瘍は、正常な脳との境界が明瞭な良性腫瘍と脳の内部に浸み込むように発育するために境界が存在しない悪性腫瘍とに分けられます。良性腫瘍の治療の原則は全摘出であり、完全に取り切れば完治可能です。現時点での課題は、従来は到達することができなかった、いわゆる部位的悪性の、頭蓋底部、頭蓋頚椎移行部、脳幹近傍等の良性腫瘍をどのようにして障害を残すことなく全摘するかということです。当科ではこれらの困難な部位の良性腫瘍(医学書院:頭蓋底の外科)の大半で新たな障害を生じることなく全摘出を達成しています。他方、悪性腫瘍はその発育様式から完全に取りきることは不可能で完治は望めません。この場合には手術で腫瘍の量をできるだけ減らした後に関連各科と連携し、放射線療法、化学療法等の補助療法を適宜組み合わせて追加するなどの集学的治療を行うことになります。他臓器からの転移性脳腫瘍については、小さなものは放射線で治療されることが多くなってきましたが、それでも治療の即効性と有意義な余命期間、診断確定の必要性などを考慮すると、手術による摘出のほうがより有用と考えられるものも依然少なくはありません。ホルモンと深く関わって不妊、無月経、乳汁漏出、巨人症、先端肥大症などを生じさせたり、視野視力障害の原因となったりする下垂体腫瘍に対しては、米国のelectrosurgeryのパイオニアと共同製作した器械を用いて、口の中ないしは鼻の穴から経蝶形骨洞手術(耳鼻咽喉科頭頚部外科 73)を行います。通常、手術時間は1、2時間で、入院期間は数日、抜糸は不要で眼に見える手術の傷は残りません。
脊椎脊髄疾患には、脳と同様に血管障害、腫瘍(Spine 18)等がありますが、高齢化社会とエクササイズブームを反映して頚椎椎間板ヘルニア/頚椎症、後縦靭帯骨化症、黄色靭帯骨化症、脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニア、腰椎すべり症など、加齢や運動負荷に伴う変性疾患が多いのが特徴です。適切な手術によって、手足の運動感覚障害、腰痛、歩行障害などの改善が期待できますが、完全マヒや筋萎縮が現れてからでは症状改善がみられないことがありますので、手や指のしびれ、こわばり、歩行障害、腰痛、足の痛みなどを自覚したら念のため脳神経外科受診をお勧めします。頚椎の手術には、神経を圧迫している病変そのものを前方から取り除く直接的な方法と神経を容れている空間を後方から拡大する間接的な方法とがあります。我々は、手術の難易度は高くなるがより根治的である、直接病変を摘除する方法を原則としています。当科では安全性、確実性を最優先する観点から脊髄脊椎手術も脳手術同様すべて顕微鏡下に行っています。場合によっては脊椎(背骨)を補強する目的で各種の金属製インプラントを併用した(スパイナルインストゥルメンテーションと呼ばれる)脊柱再建術(臨整外 36)を追加することもありますが、いずれにしてもほぼ全例で術翌日からの離床や食事が可能です。米国でのスパイナルインストゥルメンテーションの執刀経験を踏まえて、この方法を20年前に本邦の脳神経外科に紹介(脳外誌 2)するとともにこの種の手術を顕微鏡下に施行できるように改良した器械の設計製作をも行いました。本来高齢者をも対象とした手術であり、正しい訓練と十分な経験を積んだ術者によれば、70歳、80歳という年齢だけによって手術が制限されるものではありません。特殊な例としては、延髄を圧迫するリュウマチ結節を口の中から取り除き、同時に後頭骨と頚椎を固定するという術式をも開発しました。この術式にさらに改良を加えて当該部位近傍の他疾患の手術にも応用しています(Acta Neurochirurgica, Online First & Vol155)。
上記以外では、神経が脳から出入りする部位で血管に押さえつけられることに起因する顔のピクつき(顔面痙攣)、歯ぐきや顔面の発作性激痛(三叉神経痛; Neurosurgery 15)に対し、耳の後を数センチ切って脳に達し圧迫血管を移動させることによって症状を根治させる微小血管減圧術も頻繁に行っていて好成績を挙げています。そのほか、脳内に過剰に水が溜まることによって脳が圧迫され、乳・幼・小児脳の発育を阻害したり、高齢者に痴呆、歩行障害、尿失禁等の症状を引き起こしたりする水頭症に対しては、水を抜く目的で精密機械と一体化された特殊なチューブを体内に埋め込む脳室腹腔シャント術(Neurol Res 29)を行います。これについては長年大学病院のシャント部門で中心的役割を果たしてきた術者が担当し、適応があれば神経内視鏡をも併用します。
脳と神経の手術は現在でもほとんどが顕微鏡下の手術ですが、必要に応じて前述の血管内手術や神経内視鏡手術、さらには近年普及してきた放射線手術(サイバーナイフ/ガンマナイフ等)、コンピューター画像支援定位手術、ナヴィゲーション手術なども他施設との連携を含めて導入しています。
※本文中の(参考文献)は当科スタッフが筆頭著者である論文です。
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