


当院に赴任して9年近くが経過し、人工関節研究センターを開設してから7年半が経過しました。お蔭様でこれまでに700例の人工関節を含む約1,100例の関節手術と600例を超える脊椎手術を含む総計3,600例以上の手術をそれぞれの専門医により行うことができました。この場をお借りして院内外のすべての関係者の皆様と我々を信頼し治療を受けられたすべての患者さんに感謝いたします。
人工関節を受けた患者さんはほとんどの人で痛みが取れ、歩きやすくなります。「ほとんど」というのは再手術を受けることなく5年以上痛みなく過ごせる人は、当院では股関節で99%、膝関節で97%です。これは全国的に見ても非常に良い成績である、と自負しています。
さて、当院で行っている手術は「最新」でしょうか?答えは「いいえ」です。最近、インターネット等で喧伝されている「MIS(皮膚切開が小さい手術)」や「ナビゲーション」、「ロボット支援手術」等は一切していません。その代わり、40年以上に亘り改良が加えられ、長持ちすることが実証されている手術法を行っています。新しいものが古いものより良いとは限りません。新しいものは一時期はやりますが、そのほとんどは数年で改悪または意味がないことが判明し、消えていっています。
「MIS」とはMinimum invasive surgeryの略で、日本語で言うと「最小侵襲手術」です。普通8p以下の皮膚切開で行われます。でもよく考えてみると切り口が小さいと中がよく見えないですよね。中がよく見えないと人工関節の固定方向に狂いが生じたり、筋肉を無駄に傷つけたり、皮膚と手術器械やインプラントが擦れ合って感染が増えたり、と良いことより悪いことが増えてしまいがちです。皮膚切開を小さくし過ぎると却って「侵襲」が大きくなってしまいます。当院では普通の体格の人では12〜14pの皮膚切開で無理なく手術しています。手術後の傷が4〜6p長くなるだけで安全で正確な手術ができます。これが私が「MIS」をしていない理由です。「MIS」「ナビゲーション」、「ロボット支援手術」等は他に「売り」がない病院が「宣伝」のために行っている、と考えていいでしょう。当院の人工関節手術は「最新」ではありませんが、手術後の痛みや合併症も少なく「安全」です。
多くの日本の病院では米国で開発された「新しい」人工関節が使われています。業者も病院も良い点だけを強調していますが、再手術になってしまった患者さんも少なくありません。体格の大きな欧米人向けに開発された人工関節が体格の小さな日本人に上手く合うとは限りません。私は流行を追わず、実績のある人工関節と固定法を選択しています。人工関節の骨への固定方法は大西先生が30年前に開発したIBBC法を行っています(図)。IBBC法は骨セメントとハイドロキシアパタイトの顆粒を併用した固定法で、ほとんどの患者さんで30年以上弛みません。最近、患者さん向けの本も出版されたので興味のある方は読んでみて下さい(40年以上の耐用に期待がもてる人工股関節手術、イムズ梶j。また、人工骨頭にはエクセターステムを使用しています。この人工骨頭は40年前イギリスのエクセターで開発され、これまでに全世界で100万人以上の患者さんを救ってきました。もちろん、使用本数は世界一です。非常に弛みにくく、20年経ってもほとんど弛まなかった、という驚異的な成績が報告されています。IBBC法もエクセターステムも「最新」ではありませんが、30年以上の歴史があります。「日本の新幹線」も45年以上の歴史があり、「安全」な乗り物ですが、いくら最新で速くても「F1マシン」は危険なのと同じです。
また、他院で手術を断られたり、上手くいかなかった患者さんの治療もエビデンスに照らし合わせて可能な限り積極的に行なっています。この場合、再置換術となり初回の人工関節に比べ10倍の難易度となります。私にとっても重圧のかかる手術ですが、「他の術者に任せるよりは『安全』で、患者さんのためになる」、と思って出来るだけ引き受けるようにしてきました。
このように当院での人工関節は「安全」で「長持ち」します。今回は私が専門としている「人工関節」について紹介いたしましたが、吉田先生は「脊椎外科」、水野先生は「スポーツ整形」や「肩関節外科」、奥村先生、山村先生は「骨接合外科」を専門としています。「手術でしか治せない」患者さんに対してそれぞれの専門医がレベルの高い手術を行っています。今後さらに病々・病診連携を密にし、地域医療のお役に立ちたい、と考えています。


秋から冬にかけて、風邪、インフルエンザ、肺炎などの様々な呼吸器感染症が蔓延しやすくなり、それに伴い、喘息や肺気腫(COPD)などの慢性呼吸器疾患の増悪が増加します。
インフルエンザや肺炎球菌のワクチンは、接種してもそれらの発病を完全に予防することはできませんが、重症化する割合を低くする効果が期待できます。
秋から冬にかけては、気温が低くなり空気が乾燥し、気管支やのどの粘膜がデリケートになり、ウィルスや細菌などによるかぜ症候群(いわゆる"かぜ"のことです)、インフルエンザ、気管支炎、肺炎といった呼吸器系の感染症が増加します。またこれらによって、元々ある喘息やCOPD、間質性肺炎といった慢性的な呼吸器疾患が急に悪くなることも増加します。
これらを100%予防することはできませんが、うがいや手洗いの励行、無用な人混みへの外出を避ける、調子が悪いと感じれば早目に診療所や病院を受診する、といった誰でも知っていることの地道な積み重ねが発症や重症化の予防に重要です。マスクの感染予防に対する効果は限定的ですが、自分が病気になった場合に咳やくしゃみに伴う飛沫の飛散を防ぐ効果があります。
急性の上気道炎症の総称で、いわゆる「かぜ」とほぼ同じ意味です。症状はくしゃみ、鼻水、鼻づまり、のどの痛み、咳、痰などの呼吸器症状が主ですが、発熱、食欲低下、全身倦怠感、頭痛、筋肉痛、関節痛などもよく見られ、時に吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの消化器症状を伴う場合もあります。ライノウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルスといったウィルスが主な病原体であり、ウイルスには抗菌剤は無効なので、治療としては安静や対症療法(症状を抑えることを目的とする治療)が中心となります。多くは1週間程で症状はほぼ消失しますが、咳が長引くことが時々あります。また、抵抗力の落ちた状態の患者ではかぜ症候群をきっかけに全身状態が悪化する危険性があります。
インフルエンザウイルスが原因であり、症状はかぜ症候群と同様ですが、高熱をきたすことが多く、高齢者や基礎疾患を有する場合を中心に重症化することがあります。治療としては、安静、対症療法以外に、発症後48時間以内であればウィルスの増殖を抑える薬(タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタ)を使用することにより、発熱などの症状のある期間を短かくして重症化する割合を低くする効果が期待できます。
インフルエンザワクチン接種でも完全にインフルエンザに罹患することを防ぐことはできませんが、罹患する可能性を低くし、重症化する可能性を低くすることが期待できます。65歳以上の高齢者や様々な合併症を有してインフルエンザに罹ると重症化する危険性が高い人達やそのような方々と接触する機会が多い人達にはワクチン接種が推奨されます。
様々な細菌やウィルスなどが病原体となりえます。肺炎球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマが原因菌の中では多いですが、血液、尿、喀痰検査をしても原因菌が判明しないことが多いです。症状はかぜ症候群とほぼ同様でそれだけでは区別はできません。
治療としては、細菌性肺炎では抗菌剤投与が中心となります。軽症であれば外来で治療します。酸素吸入や点滴治療が必要な場合には入院が必要となることもあります。高齢者や合併症を有する患者では重症化することもあり、時には致命的になりえます。実際、日本人の死因では、がん、心臓病、脳血管障害についで肺炎は第4位であり、80才以上では第1位となっています。
また、高齢者の場合、入院をきっかけに筋力が低下して足腰が立たなくなったり、認知症症状が出現増悪することもあり、肺炎は治っても元の日常生活に戻れず、介護を必要となる場合も少なくなく、入院期間をできる限り短くして早期からリハビリテーションを依頼するようにしています。
細菌性肺炎でもっとも頻度の高い起炎菌は肺炎球菌であり、肺炎球菌ワクチン接種により、肺炎球菌による肺炎の発症の可能性や重症化する可能性を低くする効果が期待できます。高齢者や様々な合併症を有している人達は、肺炎が重症化する危険性が高く、またインフルエンザと肺炎球菌とが同時に感染を起こすとが重症化の一つの要因と考えられ、両方のワクチン接種が推奨されます。肺炎球菌ワクチンはインフルエザワクチンと異なり、再接種は5年後となります。

当院はこの数年、自己完結型の医療から地域の診療所や他の病院・施設との連携を深める「地域完結型」医療体制の構築を進めてきました。その結果、昨年10月1日付で京都府から地域医療支援病院として承認されました。そこで今回は当院の地域医療支援委員会の委員に委嘱されている皆様にお集まりいただき、地域医療支援病院としての意義やこれからの役割についてお話をすすめていきたいと思います。